デンタルインプラントとは?
インプラント(implant)とは、医療用語で「埋め込んだもの、移植物」という意味になります。人工弁やペースメーカー、人工関節、美容外科で使用するシリコンなどをインプラントと表現します。
歯科のインプラントとは、失ってしまった歯の代わりにあごの骨へ埋め込む「人工歯根(じんこうしこん)」のことを意味し、「デンタルインプラント」と言います。天然の歯と同じような見た目、噛みごこちを得られることが最大の利点になります(図1-左)。デンタルインプラントのパーツは、骨内に埋入される人工歯根(フィクスチャーとも言います)、人工歯、人工歯と人工歯根をつなぐ役目のアバットメント(支台)の3つから構成されています(図1-右)。
予防という視点でのデンタルインプラント
歯を失ったままにしておくと、両脇や対合歯(噛みあっている反対側の歯)が移動し歯並びが変わってきてしまいます(図2-左)。また、歯並びが悪いだけでなく図2の右写真のように口元の張りがなくへこんで、見た目にも良い印象を持たれる方はあまりいないでしょう。
歯を失った後の治療法としては、入れ歯(義歯)、ブリッジ、デンタルインプラント治療の3つがあげられます。
1本の歯を失った場合、両隣に歯があればブリッジが第一選択になることが多いですが、健康な歯を大きく削る必要があります(図3)。
歯を複数本失っていたり、隣に歯が無い場合は部分入れ歯(義歯)になるかもしれません。ただ、義歯は自分の歯に比べると噛む力が1/5以下になると言われています。また、就寝時には外し起床時に装着するという煩わしさや、紛失してしまう恐れもあります。さらに健康な歯へ針金をかけて義歯の維持をしますので、針金が人に見えてしまったり、維持している歯に負担がかかり、ダメになってしまうこともあります(図4)。
【図4】 歯を数本失った場合(部分入れ歯・下顎の奥歯)
全ての歯がなくなってしまった場合は、保険適用の治療では義歯一択(いわゆる総入れ歯)になります。部分入れ歯と違って歯ぐきのみで義歯を支えるため、外れたり動いたりしやすく、不便なく使えるようになるまで複数回の調整や長い期間がかかることが少なくありません。
インプラントの場合であれば、下あごに2本、上あごに4本のインプラントで義歯を支えることができるため、義歯が動くこともなくしっかりと噛めるようになるというメリットがあります。また、取り外して手入れが必要になる義歯は嫌な方には、固定式の上ものを装着することも可能です。この治療方法をAll on 4(オールオンフォー)と言います。(図5)
【図5】歯をすべて失った場合(総入れ歯・下顎の奥歯)
インプラント治療の流れ
①診査と治療計画
手術前には、お口の中の写真撮影、歯型の採取、レントゲン撮影、CT撮影などの資料が必要です。資料採取後はコンピュータ上でCT画像とお口の中の情報を合成し、ここへバーチャルの歯も再現してプランニング(シミュレーション)を行います(図7)。プランニングの説明時に見積り書も提示しますので、ご納得頂けたら手術となります。
②手術(インプラント体挿入~人工歯の装着)
インプラント手術は基本的に日帰り・局所麻酔下で行いますが、希望される方には点滴から鎮静薬を流して眠っているような状態で手術を行うことも可能です。
当院の特徴として、ほぼ全例でサージカルガイドを用いてインプラント埋入を行っている点があります。シミュレーションした位置、角度、深度でインプラントを埋入できるようにマウスピースのようなものを製作し、これに従ってインプラントを埋入する穴(埋入窩(まいにゅうか))を形成します(図8)。精細なシミュレーションをお口の中で再現するためにはサージカルガイドの使用は必須となります。またこのガイドを用いることで、重要な血管や神経の損傷を避けながら、なるべく骨造成手術をせずに埋入することができます。
ここで注意事項ですが、インプラント埋入後はすぐに人工歯が装着されて噛めるようにはなりません。インプラントと骨がしっかりとつくまで6〜12週程度かかり、その期間後に型取りを行い、ようやく人工歯が装着されます。
③治療後の定期健診
せっかく入れたインプラントを長期的に維持させるには、お口の中を衛生的に保ち、定期健診を受けることが大切です。インプラントにもインプラント周囲炎というインプラントの歯槽膿漏を起こすことがあります。歯ブラシ、デンタルフロス(糸ようじ)、歯間ブラシを使用して適切な清掃を行っていれば、そう簡単に生じることはありませんが、定期的に来院していただきメンテナンスを行っていく必要性があります。
インプラント治療の欠点
最大の欠点は、手術前の検査からすべて保険適応外の自費診療になってしまうことです。当院では、人工歯根が1本約18万円、これにスクリュー固定式の人工歯が1本約12万円の費用がかかります。これに各種検査やサージカルガイドの製作費もあるため、1本あたり総額で40〜45万円程度かかります。
ただ、インプラント埋入のために十分な骨が無い方の場合は、骨造成術をインプラント埋入手術前もしくは同時に行う必要があります。口の中の他の部位から自分の骨を採取し人工骨と混ぜて使用するケースがほとんどですが、多量の骨造成が必要な場合は、腰やすねの骨から骨を採取することもあります。
さいごに
このようにデンタルインプラントは、見た目も自然で、元の自分の歯のようにしっかり噛めるようになる治療法です。歯をもう失わないための“予防”という点でも有効な手段とも言えますので、選択肢の一つに加えてみてはいかがでしょうか。